ビニールの城 千秋楽 そして感想

ビニールの城、終わってしまいました。千秋楽、中2階立見で観てきました。
最後ということで、瞬間瞬間を惜しむかのように情感溢れる演者のみなさんの芝居。都合4回目の観劇ですが、今日は特に熱量がすごかった。
鳴り止まぬカーテンコール。剛くんの長い長い長いお辞儀、最後、夕顔を抱え隠すことなく何度も涙をぬぐっていたのが印象的でした。
あぁ本当に素晴らしい芝居だった。あの空間がすべて愛おしい。もう見られないと思うと、寂しい・・。
そして感想。
社会からはみ出た個が、他と通じようともがき、それでいてどうあっても捨てられない己と、そのことに気づき傷つき悔いて、尚相容れないそれぞれの関係が哀しくも滑稽で、美しくも儚い。こんなにも熱く強いのに、どうしても交わることのない想い。踏み込めず、その手からこぼれていく。
彼らをとりまく世界はまるで電気ブランのせいで見た毒々しく魅惑的な悪夢か、今にも消えそうな幻想のようで。「電気ブランの飲み過ぎですよ電気ブランの飲み過ぎですよ・・。」
あの猥雑で雑多な世界で朝顔とモモの歌は穢れない。
世の中とは人間とは痛々しくも滑稽で、生々しくも清々しい、苦々しくも爽快ですらある・・なんて哲学的な想いでぱんぱんになりました。考えるより感じろ。ただ感じることが快感である佳作でした。
なんといってもキャストが素晴らしい。剛くんはイノセントなだけでなく、時に利己的であったり狡猾であったりする深みのある朝顔を作り上げていて、特に水槽上で諸君に演説するシーンは圧巻でした。
りえさんはそこはかとなく漂う薄幸な雰囲気が(褒め言葉)、モモの危うさを、ひいては彼女の行く末をにおわせて、観る者を釘づけにする。
良々の夕一は健気で不憫。普段の良々は心底いじわるとか嫌なヤツの役が似合うのに、今回は彼だからこその悲哀に溢れていました。
江口のりこさん、血は立ったまま・・でも際立ってましたが、今回も素晴らしかった。出番は少ないのにすごい存在感。水の中に潜った彼女はものすごく美しかった。
そしてそして。転換時の「なーんてじめじめした陽気だろ」のシーンがとってもとっても優しかった。遠慮ないセンチメンタルが、優しかった。優しい優しい愛に溢れていて涙がでました。蜷川氏が演出したらどんなになっただろうなんてちょっと思ったりもしたけれど、あの優しいシーンを見たら、なんかもう胸いっぱいになりました。
幻想のように美しく触ったら壊れそうに繊細で、でも力強い、本当に素晴らしい舞台でした。
映像化もないだろうし、幻想のようにビニールの城のように、思い出の中に大事に大事にとっておくのもこの芝居らしくていいかもしれない、なんて。