「黴菌」

wowowで放送の「黴菌」を見ました。
ケラ作品、結構好きなんですが、これは劇場に観にいけなかったので、早々の放送、楽しみにしてました。
「東京月光魔曲」に続く昭和シリーズ第2弾。ある裕福な一家とそれを取り巻く人々の終戦を挟んだ数ヶ月のあれやこれやの群像劇。終戦がもたらす彼らの変化を転換ナシ3時間超えで描いた作品。
なるほど、長い。そして登場人物が多い(しかも主役級の役者がいっぱい)。しかし、おもしろい。ちっともだれない。登場人物がとっかえひっかえ、舞台である屋敷のリビングに現れては各々の悩みと言うか問題を吐き出していく。それぞれ個性的で、抱える悩みの大小も真偽も深刻さの度合いも様々なのだけど、なんというかその絶妙な交差の感じが心地よいというか。登場人物はたくさんでエピソードも多いのだけど、見ていて混乱せず入り込みやすい。そして無駄がない。その辺り、比べるのもなんですが「東京月光魔曲」よりこっちの方が断然おもしろいなーと思いました。
戦争により潤っている一族の、消せない過去の、その悔恨の念の、そのせいで歪んでいた関係が、皮肉にも彼らを経済的に破滅させる終戦によって、あるべき形に戻るという収束の仕方がよかった。1章2章3章と、あの家族の(3兄弟の)傲慢な生き方により、繁栄し、更に差別化される様と、一気にそこから堕ちていく様、どうしようもなく救いのない展開になるのかと思いきや、4章の、あのハッピーエンドにも似た(もしかしたらそれはまた別の不幸への暗示なのかもしれないけれど)、決して逃れることの出来ない血の繋がり、その濃さを思わせるラストがよかった。最後まで見てなんだか清清しい気分になりました。
番組前後のケラさんインタビューによると当て書きとのことですが、役者さんそれぞれが役にぴったりです。特に北村一輝さんがよかったなー。ラストに号泣するところ、あのキャラだからこそ、より感動的でした。しかもそれを笑っていい演出にされているのが余計に心温まりました。逆にちょい微妙だったのが仲村トオル氏(舞台での彼を初めて見たのですが)。意外にも声が通る感じなのはよかったんだけど、あのキャラ作りすぎ?なのか、ホントにアレが限界なのか、の芝居に最後まで慣れなかった。とにかく彼がなんか言えば爆笑のなんともおいしい役どころなのだけど、あまりに鈍重な感じが、素なのか、おおげさな芝居なのか、おもしろいのか、イタイのか、掴みきれなかったので。最後まで。まさにそれがネライなのかもしれないけど、そこが気になっちゃって。あんなおいしい役、他の(上手な)人が演ったらどんなにおもしろかったのかとか思っちゃったんで。
とはいえ、芝居自体ホントおもしろかったです。観に行けばよかったと思うほどに。(ところで、このタイトル、チラシで見て以来ずっとカビキンだと思ってました。ハズカシっ)