「人間失格」

忘れる前に、そろそろ映画本編の感想。
正直、ワタシ的にはこの映画はいまひとつ物足りない感じ。決して悪いわけではないけど、原作に思い入れがあるので、ねー・・。(ということで、以下、褒めレビューではありません。)

他人から見える自分を過剰に意識し、上手に世の中を渡っていく周りの人達と相容れない、生きている資格のないダメな人間である自分を、自堕落な生活で更に自ら追い詰め逃げ場を失っていく葉蔵が、実は端から見たら「神様みたいないい子」だったところがこの話の肝なわけで。
でもこの映画だとその辺りが微妙というか・・。
ぐちゃぐちゃになって絶望のうちに堕ち続けるダメ人間という風でもないし、かといって神様みたいないい子にも見えなかったのが、残念。キレイでピュアなだけというか。葉蔵は自分のこと特異だと思ってて、生きていることに罪悪感を抱いていたのが悲劇の始まりだったのだと思うのだけど。その辺、わざとあっさりとどっちつかずに描いたのかもしれないけど、そこがワタシ的にはちょっと物足りなかったかな。
全体的に抽象的にキレイキレイに描きたいのかと思えば、ヒラメだの堀木だのいわゆる一般的な人達が葉蔵にはグロテスクに見えて怖かったという心象を、あまりにもわかりやすくベタに表現しすぎなのが気になった。あの2人に代表される、ところどころで挿入される妙に誇張された芝居とか、ベタ過ぎてコントのようだなーなんて思ったり・・。おそらく大多数を占めるであろう若年の観客層に向けてわかりやすくサービスしたのかもしれないけれど、でもきっと若いヒト達なんて大人より感受性が豊かなはずなんだから、観客を突き放すくらいもうちょっと見てる人が自分で考えたり補ったりするようなつくりでもいいんじゃないかなーと・・。
ただキャストはそれぞれぴったり合ってると思った。イメージ通り過ぎて、(しかも漫画のように誇張した演出も多いので)この似合いすぎるキャストが挿絵というかイメージ映像のように感じられたりもして。(なので最後のエンドロールの写真とかすごくよかったんですよね・・。)

ということで。これだけポピュラーで(読み手それぞれに解釈があって)、しかも小説だから成り立つ巧妙な1人称語り(と、オチともいうべき最後の3人称)が特長の話を映像化するのはそりゃー、知恵と技術と勇気が必要だわーと思った作品でした。