スラムドッグ$ミリオネア

遅ればせながら「スラムドッグ$ミリオネア」を見ました。トレインスポッティング前後のダニーボイルは好きだったのだけど、最近はめっきり彼の作品見てなかったんですけど。(以下ネタバレあり)

なんともいい映画です。見おわってしばらくしてからじわじわと沁みてきます。単なる感動ものというわけでもなく、ダニーボイルらしい軽妙なテンポに加えてソリッド感満載な映像も健在です。
主人公ジャマールが答えるクイズの解答から、彼がその正解を身につけることになった過去の様々なエピソードへと展開されていくという手法が斬新ですごく効果的。1問目の映画スターにサインをねだった子供の頃の記憶、三銃士(これがあとあと効いてくる)に夢中になる唯一幸せだった無邪気な記憶の辺りで早速目頭が熱くなりました。その後、ジャマールに襲い掛かるのは劣悪で不幸な出来事ばかり・・。
しかし。しかしです。負けてないんです。とにかく過酷な運命に、これでもかと順応して、ときに小ズルく、ときに健気に。とにかく子供が逞しいんです。どんなに辛くても哀しくても決してじめじめてないんです。見ていてスカッとするくらい。
子供だけの路上生活に手を差し伸べてくれた“聖人”のような男が実は子供を使って(わざと体の一部を不遇にして)金を稼ぐとんでもない悪者なのだけど、なぜかちょっと御伽噺の悪い魔法使いのような、そんなファンタジックな気さえしてしまうのです・・。(大人になってからのエピソードはリアルが過ぎてそんな風には思えないのだけどね。)
このタブーをタブーとしない感じ、あらゆる境遇をそのまま受け入れてしまう感じ、不幸に酔わない感じ、その辺りがこの映画の勝因というか、インドという国のすごさだなーと。これに尽きますかね。
スラム街で生き抜くための知恵がジャマールの知識のすべてであり、その彼が誰も成し遂げなかったミリオネア全問正解をしたことは、つまりまだ歳若い彼がいかに多くの壮絶な修羅場を潜り抜けて生きてきたのかということで。そしてそういう現実がありえるかもと思えてしまうのは、(冒頭の警察とは思えない尋問シーンなんかも含めて絵空事とは思えないのは)この国の現状を物語っているのかなーと。外見的には(兄弟で、自分達が育ったスラム街が今では世界のビジネスの集まるところだと話すシーンのように)急速に変わりつつあるのだろうけど。そしてそこもまたこの国を象徴しているのだろうけど。
色々なものを失って、色々なものを受け入れて、最後にラティカと通じ合うジャマール。これまでの人生全てがフラッシュバックするように、いいことも悪いことも、その全部があってこその今このときで、それこそ全てが運命であり、そしてまた今現在もこれから訪れる未来への、なくてはならない一瞬なのだなーと・・。じわじわじわじわ色々考えて感動しちゃいました。アカデミー賞、文句なしです。

そして最後のインド映画風のエンドロールもなんだかほっとする感じですごくよかったです。